十勝毎日新聞電子版
Chaiでじ

2024年12月号

特集/新店でめぐる2024年

そばのおいしい季節です(6)「引き継がれる伝統の味~正己 秦食堂、かし和家、そば蔵大正(笑)庵」

左から店主の秦秀二さんと後継者の山崎聖弥さん。秦さんは「陸別をもっと盛り上げたい」、山崎さんは「味を継承しつつ、商品開発など新しいことに挑戦したい」と将来を見据える

 何世代にもわたり、守り続ける伝統の味わい。師匠から弟子へ思いをつないだ3店の老舗そば屋を紹介します。

親鶏を使用した〈かしわそば〉1,050円。歯ごたえがよく、味がしっかりしみこむ


「町を盛り上げたい」。重なる思いを師匠から弟子へ
正己 秦食堂
 1947(昭和22)年創業の秦食堂は、親子3代でのれんを守ってきた老舗そば屋。昨年7月から休業していたが、今年7月より後継者に地域おこし協力隊の山崎聖弥さんを迎え再出発した。

 提供するそばは幌加内産のそば粉を使用し、つなぎは一切使わない十割そば。そば打ちの際に熱湯を使用してそば粉の粘りを強め、切れることなくコシが強い麺を作り出す。

 7月から秦さんと一緒に店を切り盛りする後継者の山崎さんは東京の洋食店などで経験を積み、「地元の飲食店を盛り上げていけたら」と今年5月に地元陸別へUターン。秦さんのもとで働きがら一日でも早く師匠の味に近づけるよう、腕を磨いている。最長3年の任期後、店を継ぐ予定だ。ベテランから若者へバトンをつなぐ秦食堂の未来は明るい。

〈ざるそば〉850円。そばの締めには、とろみのある濃厚な飲み口のそば湯も用意。そばの風味が口に広がり、ホッとする味わい。ストレートで飲むのもお勧め

店舗に隣接する自家製粉工場の「そば粉の銀行」。客からそばの実を預かり、注文に応じて実をひいてそば粉を出すことが銀行の仕組みと似ていることから名付けられた(現在は受け付けていない)

座敷やテーブル席があり、ゆったりと落ち着く空間。客の7~8割が町外から訪れる

1994(平成6)年から厨房に立つ秦さん。「父の姿を見よう見まねで覚えた」と慣れた手つきで注文をさばく


陸別町大通
Tel:0156・27・2048 
営:11時~15時(そばがなくなり次第終了) 
休:日曜



浦幌で何かしたいという思いがありつつも、将来のイメージがわいていなかった近江さん。多くの人から愛される同店の継承にプレッシャーを感じつつも徐々に使命感が芽生えた


若き感性が光る、浦幌期待の後継者
かし和家
 四代目店主の近江幹太さんはまだ23歳。97年続く同店を継承するきっかけは、先代の山岸嘉一さんと交流のあった近江家が店舗を買い取ったことだった。修業が始まると、来店した多くの客から感謝の言葉をもらい、継承する責任の重さを実感したという。

 同店のそばは、クロレラを練りこんだ緑色の麺。つゆは創業から継ぎ足され、かし和家の命とも言えるかえしをかつお節2種とさば節のだしで割る。「先代の味を安定して提供しつつ、若い人も気軽に立ち寄れる店にしたい」と意気込む。まだまだ成長をみせる若き後継者の挑戦は始まったばかりだ。

〈あぶら蕎麦〉900円。近江さん考案の同店イチオシのメニュー。冷たいそばにごま油、ネギ、のり、卵黄をトッピング、つゆに漬け込んだ鶏肉が食欲をそそる

奥には50人以上が入る座敷も。町民が交流を深める癒やしの場となっている


浦幌町本町73
Tel:015・578・9080
営:11時~14時(LO15分前) 火・木・金・土曜17時~20時
休:日曜(月・水曜はランチのみ)




師匠である百姓(笑)庵の長崎さんに教わった技術と「お客さま第一、お客さまが師匠」という精神を糧に研さんを続けている坂本さん。「メニューも蕎麦打ちも未完成。スタッフに支えられながら日々修行です」と謙虚に話す


受け継いだ味に笑顔が集う
そば蔵大正(笑)庵
 幕別町駒畠で農家の長崎勉さんがそば店をオープンしたのは2000年のこと。その名は百姓(笑)庵。十勝のそば文化をけん引したが19年に惜しまれつつ閉店。その流れをくむのが風光明媚(めいび)な大正時代の古民家で営む大正(笑)庵だ。

 大正(笑)庵は02年にオープンし、15周年を区切りに一旦閉店したが、翌年、現店主の坂本仁さんが経営を引き継いだ。そば打ちは百姓(笑)庵で修業し、同店を営んでいた長崎さんを師と仰ぐ。中標津産キタワセを十割そばで提供し、強いコシと喉ごしの良さが特徴。店の名に恥じることのない、手間暇かけたそばを打ち続ける。

〈天ざる〉1,550円は名物でもある〈ごぼう天〉と肩を並べる人気メニュー。サクサクの天ぷらの調理は坂本さんの奥さまが担当する。地元の山わさびを添えている

坂本さんは大のラジオ好き。古いラジオとメーカーキャラクターのコーナーがお気に入り


芽室町西士狩北5線25
Tel:0155・62・8833
営:11時~14時
休:月・火曜(祝日の場合は営業)


※フリーマガジン「Chai」2024年10月号より。
※撮影/辻博希、平栗玲香、清田千裕。写真の無断転用は禁じます。