十勝毎日新聞電子版
Chaiでじ

2024年12月号

特集/新店でめぐる2024年

寒さ本番、おうち充実(2)「職人に聞く 家具作りに込めた思い~アイアン家具 WAKA」

素材の個性を生かして作るハイセンスなオーダー家具 
 丁寧にやすりがけされた木と無骨な鉄。異なる二つの素材を組み合わせ、ワイルドさと繊細さ、かっこよさと優しさを兼ね備えたアイアン家具。しっかりと存在感を放ちながらも、シンプルなデザインがさまざまなスタイルの部屋に自然となじむ。そんな魅力的な家具を手掛けるのは、「アイアン家具WAKA」代表の磯田敦史さん。2017年に家具の製作を始め、2020年に工房を構えた。現在はアルバイトと社員合わせた11人の従業員と共に、長く使える家具作りを目指し日々工房に立つ。

 メインの製作物は、テーブルや棚といったオーダーメイド家具。そのほか、DIY用の鉄脚や小物類など「家具に限らず鉄を使ったものならできる限り要望に応えますよ」というから頼もしい。

「アイアン家具を知らない人にも興味を持ってくれたらうれしい。大切に使ってくれたら」と磯田さん


原点は父と働いた鉄鋼業
 芽室出身の磯田さんは、鉄鋼屋を営む両親の元で育った。高校卒業後、音楽の専門学校に進学するため札幌へ。当時バンド活動をしながらプロを目指すが、「札幌には自分たちより上手なバンドが多くて」と音楽に限界を感じ帰郷。父の営む鉄鋼屋で働き始めた。好奇心旺盛な磯田さんはその後、屋根の修理を行う板金屋、牧場、トラック運転手、高速道路の整備とさまざまな職業を経験してきた。高速道路で働いていた際に、昔、父に習い覚えた溶接をするなど改めて鉄鋼が身近に。「もう一度鉄鋼業に携わりたい」と知人の鉄鋼屋で手伝い始めた。

 知人の手伝いをしながら、溶接の資格を持つ自分の強みを生かし、身近に使える家具を作りたいと思ったのがきっかけで家具の製作を開始。当初は友人のためだけに製作しており、「まさか家具を作って売ることになるとは思ってもいなかった」と当時を振り返る。というのも磯田さん、これまでに家具製作の経験はなくすべて独学。動画を見ながら頭の中でイメージを作って手を動かしてみる。サイズが合わなかったり、組み立てがうまくいかなかったりと何個も作っては壊しての繰り返し。「イメージを膨らませるのは簡単だが、それを作るのは難しい」と壁にぶつかるも、家具製作への情熱が消えることはなかった。チェアーやローテーブル、ローシェルフなど作りたいと思ったものは何でも挑戦し、腕を磨いてきた。 

昨年10月にオープンした神奈川のカフェから依頼を受け製作したアイアン家具一式。個人のみならず店舗からの注文と幅広く手掛ける


感謝していつまでも続けたい家具作り
 「本音を言うと元々モノ作りは嫌いで。作業しているとホコリが舞うし、そのためにマスクをつけるのも息苦しい。溶接をしながら気づいたらジャンパーが燃えていたこともあり危ない目に何度も合った」と話す。

 しかし、それでも家具の製作を続けるのは、支えてくれた人がいるから。知人に仕事をもらったり、音更に工房を構える友人が作品を紹介してくれたりとお世話になった人への恩返しも磯田さんの家具製作への原動力に。「人と人とのつながりを大切にしながら家具作りをしていきたい」との思いが強くなった。

 今後の目標は店舗一式を手がけること。「内装、壁、家具まで完全プロデュースの店を作れたら」と磯田さんは目を輝かせる。そして「自分の手がけたもので人を喜ばせることができたら幸せ」と笑顔で語る。

 実は磯田さん、店名の「WAKA」は3歳の愛娘からとってつけた。「大きくなって嫌がられたら改名しようかな」と言いながらも、笑顔がこぼれる姿からは娘を愛してやまない親心がうかがえる。磯田さんにとって家具も同じ。自分の子どものように一つ一つ大切に心を込めて作りあげる。磯田さんの手から旅立った〝わが子〞は今日も日本のどこかで人々の生活を支えている。

長野にあるタルト店の名物ベンチも製作。関東を中心に道外からの依頼も多く、客と密に連絡を取りながら、要望に応えた家具作りをする


<アイアン家具 WAKA>
帯広市西24条南4丁目12-10
Tel:0155・67・0548
営:9時~18時 
休:土・日曜


※フリーマガジン「Chai」2023年2月号より。
※撮影/辻博希。写真の無断転用は禁じます。